事業報告

受入環境整備|フードダイバーシティ推進

はじめに

近年、広島県を訪れる外国人観光客の約1割が、宗教的・文化的背景や健康上の理由等により、何らかの食の制限を有しているとされています。こうした状況は全国的な傾向であり、インバウンド受入を進める上で無視できないテーマとなっています。

東広島市においても、西条酒蔵通りを中心に欧米豪や台湾などから多くの観光客が来訪している一方で、食文化対応の不足などの要因により、滞在時間や観光消費額が伸び悩むという課題があります。

また、広島大学を中心にイスラム圏出身の留学生とその家族が多く居住しており、VFR(親族・友人訪問)需要が高い地域でもあります。実際に毎年実施するVFR市場動向調査においても、家族等の来訪時の懸念事項として「食事(宗教的な制限や習慣)」を回答者の36.8%が選択してり、上位に挙げられています。

VFR市場動向調査 2024

これらの背景と課題を踏まえ、東広島市観光総合戦略およびディスカバー東広島観光アクションプランでは、受入環境整備を中期的なスパンで推進していく方針を掲げています。その具体的な実行フェーズとして、本年度は観光庁「多様な食習慣や文化的慣習を持つ訪日外国人旅行者の受入環境整備に向けたモデル事業」に採択され、フードダイバーシティ推進事業を実施しました。

事業実施目的

本事業は、以下の目的のもと実施しました。

  • 多様な食文化に対応した受入環境の整備による観光消費額の向上
  • ムスリムフレンドリーなまちづくりを通じたVFR需要への対応強化と多文化共生社会の推進

観光客だけでなく、地域に暮らす外国人市民を含め、誰もが安心して食を楽しめる環境を整備することで、観光振興と住民満足度の向上の両立を目指しました。

取組内容とワンポイント

中期的視点に立ったロードマップの策定

東広島市役所や東広島商工会議所、広島大学との検討会を実施し、「多様な食文化推進ロードマップ」を策定しました。単年度の取組で終わらせるのではなく、3年間の段階的な取組(基盤定着・展開強化・定着持続)を整理し、ディスカバー東広島観光アクションプランと整合したロードマップとして位置付けました。

DMOが中心となり、行政・商工団体・大学・飲食店など多様な主体が同じ方向性を共有できるよう整理したことで、今後の取組を継続的に展開していくための土台づくりにつなげました。

PDFデータ:東広島 多様な食文化推進ロードマップ

地域事業者向けセミナーの開催

ヴィーガン・ベジタリアン・ハラール対応に関する基礎理解を深めることを目的に、専門家を招聘し、地域事業者向けセミナーを計2回開催し、延べ35名が参加しました。

セミナーでは座学に加え、実際に開発したメニューを試食する機会を設けることで、味や提供イメージを具体的に共有しました。また、Googleビジネスプロフィール登録やMEO対策についても案内し、受入環境整備と情報発信を同時に進める重要性を伝えました。

専門家の指導のもと特別な対応を前提とするのではなく、既存メニューの工夫や表示方法の改善など、各店舗の状況に応じて無理なく取り組める内容とすることで、参加事業者の理解促進に繋げていきました。

ヴィーガン・ハラール対応メニューの開発

専門家派遣により、ヴィーガン対応メニュー2店舗およびハラール対応メニュー2店舗の計4店舗にて開発支援を実施しました。

支援にあたっては、飲食店の現場オペレーションや経営判断を尊重し、調理工程や仕入れ、提供方法に過度な負担が生じないよう配慮しました。既存メニューのアレンジや調味料の見直しなど、日常営業の中で継続可能な方法を中心に助言を行いました。

本事業の実施にあたっては、専門家として現地に何度も足を運び、きめ細かな助言と伴走支援をいただいた守護様、ならびに株式会社FRASCO 中村様の多大なるご協力をいただきました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。

また、開発したメニューを実際の利用者に提供するモニターツアーを通じて、味や分かりやすさ、安心感などについて検証を行いました。

VFR促進企画| Myおもてなしコンテスト2025

こうした実証を通じて、メニュー開発が机上の取組にとどまらず、実利用を想定した改善につながる形で進めていきました。

情報発信ツールの整備

英語グルメ冊子を制作し、西条駅および大学界隈を中心に、インバウンドフレンドリーな店舗を掲載しました。

「ビーガン・ハラール専用」としてしまうと利用者が限定される懸念があるため、特定の属性に限定せず、外国人観光客が安心して利用できる店舗を幅広く紹介する構成としました。また、本年度開発したメニュー対応店舗についても掲載し、来訪者が事前に情報を取得できる環境を整備しました。

あわせて、GoogleビジネスプロフィールやHappyCowへの登録支援、DMO英語サイトでの情報掲載を進め、検索段階から利用につながる導線づくりを行いました。今後はメニュー対応店舗数の増加に応じて、英語パンフレットやWEB情報を継続的に更新していきます。

おわりに

広域地域連携による推進

本年度は、フードダイバーシティ推進に向けた基盤整備フェーズとして、対応店舗の創出、事業者の理解促進、情報発信体制の構築といった成果を得ることができました。一方で、市場ニーズがあるにもかかわらず、地域の飲食店は日々の営業で多忙を極めており、セミナーへの参加やメニュー開発に十分な時間を割きづらいという課題も明らかになりました。

この課題に対しては、短時間で参加できるミニ勉強会の実施や、個別訪問によるフォローアップ支援、事例共有を中心とした情報提供など、事業者の負担を抑えた支援手法を周辺市町や広域団体と連携して検討、実施していきます。

外国人市民連携

また、外国人市民との連携強化にも取り組んでいきます。具体的には、ラマダーン終了時に市内に立地するイスラム文化センターへ新たにメニュー開発を行った飲食店から、ハラール対応の品をチラシやポリシーとともに差し入れすることで、日常的な飲食店の利用促進を図っていきます。

さらに毎年、複数回実施している外国人市民向けモニターツアーの行程にメニュー開発を行った飲食店を組み込み、満足度や推奨度等のアンケート調査を実施するとともに、Googleマップ等への母国語によるレビュー投稿を促進、英語サイトにモデルコースとしても掲載していきます。

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中期的な取り組みへ

今後は、以下のKPIを明確に設定し、DMOアクションプランに反映させることで進捗を可視化しながら取組を継続していきます。

  • 対応店舗数
  • 英語サイトのPV
  • 満足度・推奨度(利用者アンケートの実施)

フードダイバーシティへの対応は、観光施策にとどまらず、多文化共生社会の基盤づくりでもあります。観光と暮らしを切り離すことなく、地域全体で持続可能な受入体制の構築を目指していきます。

観光アクションプランの策定

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